製造業の情シスにいると、工場側のシステムは「別部門の管轄」として線が引かれていることが多いと思います。ネットワークも管理も分かれていて、こちらから手を出しにくい。
ただ、その線の向こう側が今いちばん人が足りない領域です。工場のIT化が進んで、制御システムがネットワークに繋がり、セキュリティが問題になっている。それなのに、ITと制御の両方が分かる人がいない。
この記事は、製造業の情シスにいる人が、工場側のセキュリティ案件を実際にどう拾うかという話です。OTセキュリティそのものの解説は別記事にまとめています。
なぜ情シスが有利なのか
この領域に必要なのは、ITと制御の間を通訳できる人です。そして製造業の情シスは、すでにその位置に立っています。
- 社内にいる:外部コンサルと違い、現場に足を運べる。工場長と話せる立場がある
- IT側の常識を持っている:パッチ適用、資産管理、ネットワーク分離の考え方が分かる
- 制御側の事情も見えている:「止められない」「更新できない」現場の理屈を、外部の人より理解している
外から入るコンサルタントが最初の半年で苦労するのが、この3点目です。現場が何を嫌がるかを知っているのは、社内の人間の圧倒的な強みです。
工場側で「拾える」案件
いきなり「OTセキュリティをやります」と宣言する必要はありません。既に発生している課題から入ります。
① 工場ネットワークの資産洗い出し
最も入りやすく、最も価値が出ます。「工場に何が繋がっているか」を誰も正確に把握していない組織は珍しくありません。
やることは、IT資産管理と同じ発想です。ただし能動的なスキャンは避けるのが鉄則。制御機器はスキャンパケットで停止することがあります。まずは既存の設計書、ネットワーク図、購買記録から積み上げ、現場ヒアリングで補完します。
この作業だけで「工場に何があるか分かる人」になれます。
② 外部接続の棚卸し
保守ベンダーのリモート接続、USBでの更新、設備メーカーの持ち込みPC。工場の外部接続は、たいてい誰も一覧を持っていません。
ここを整理すると、リスクが目に見える形になります。経営に報告できる材料としても強い。
③ ネットワーク分離の検討
情報系と制御系が同一セグメントにある、という状態は今も残っています。分離の提案は情シスの得意分野です。
ただしいきなり分離を実行しないこと。現場の通信要件を洗わずに切ると、生産が止まります。まず「今どの通信が必要か」を可視化する段階から入ります。
④ 工場向けのインシデント対応手順
IT側の手順書は、そのまま工場では使えません。「端末を隔離する」がラインの停止を意味する場合があるからです。
誰が生産停止を判断するのかを決めておく作業は、実質的にOTセキュリティのガバナンス設計です。
現場と衝突しないための進め方
この領域の失敗は、技術よりも組織間の摩擦から起きます。実際に効く順序があります。
- 止めない、と最初に言う:現場が最も恐れているのは生産停止です。「調べるだけで、勝手に何かを変えない」と明言する
- 現場の言葉で聞く:「脆弱性」ではなく「この装置、外から入られたらどうなりますか」と聞く
- 現場のメリットを先に出す:資産一覧は、故障時の切り分けにも使えます。セキュリティのためだけの作業に見せない
- 小さく始める:1ラインだけ、1工場だけ。成功事例を作ってから広げる
「セキュリティのために協力してください」は、現場にはほぼ響きません。現場の課題解決とセットにするのが唯一の道です。
知識の埋め方
制御システムの知識は、書籍と規格で最低限は埋まります。
- IEC 62443:産業用オートメーション・制御システムのセキュリティ規格。ゾーンとコンジットの考え方は、そのまま提案の骨格になります
- NIST SP 800-82:産業用制御システムのセキュリティガイド。米国の文書ですが、内容は汎用的です
- IPAの制御システム関連資料:日本国内の事例や注意喚起が得られます
規格を全部読む必要はありません。提案の根拠として引用できる程度で十分機能します。「IEC 62443のゾーン分割の考え方に沿うと」と言えるだけで、話の通りが変わります。
この経験をどう職務経歴書に書くか
拾った仕事は、書き方で評価が変わります。
- ❌「工場のセキュリティ対応を担当」
- ⭕「製造拠点の制御ネットワークにおける接続資産の可視化を実施。外部接続経路◯件を特定し、保守ベンダー接続の管理手順を策定」
OT領域は経験者が少ないので、具体的に書ければそれだけで希少性が出ます。書き方はインフラ経験を「セキュリティの言葉」に翻訳するにまとめています。
この経験が、外の市場でどう評価されるか
OT・制御系の経験を持つ人材は市場に多くありません。今すぐ転職しなくても、求人票の要件を見ておくと「何を実績として残すべきか」が具体的になります。IT・技術領域に強いエージェントなら、要件から探してくれます。
アカリクキャリアで求人を見る(無料登録) ›まとめ
- 製造業の情シスは、ITと制御の通訳ができる位置に既に立っている
- 拾えるのは、資産洗い出し/外部接続の棚卸し/ネットワーク分離検討/工場向けインシデント手順
- 現場とは「止めない」「現場のメリットを先に出す」で進める
- IEC 62443・NIST SP 800-82は、全部読まなくても提案の根拠として使える
- 経験は具体的に書けば、希少性がそのまま市場価値になる
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この記事は業界一般の情報と筆者個人の経験に基づくものであり、特定の組織の見解ではありません。

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