セキュリティ転職の志望動機で、いちばんもったいないのは「サイバー攻撃が増える中で、社会を守る仕事に貢献したい」で終わってしまうことです。
正直に言うと、この一文は誰でも書けるし、誰も差がつかない。採用側は毎日これを読んでいます。別の記事で職務経歴書を「事実ベースで翻訳する」話を書きましたが、志望動機も同じです。熱意ではなく、あなたの経験と志望が一本の線でつながっていることを示すのが勝ち筋です。
経験者の志望動機は「熱意」より「一貫性」
未経験の新卒なら熱意で勝負するしかありません。でも、IT・インフラ経験のあるあなたは違います。「これまでやってきたこと → その中で気づいたこと → だからセキュリティへ」という一貫したストーリーが書ける。これが経験者の武器です。
型はこうです。
- これまでの実務(何を何年やってきたか)
- その中でセキュリティに触れた/関心を持った具体的な瞬間(ここが核心)
- だからセキュリティ専門職を志望する(自然な帰結として)
- 応募先で何をしたいか(企業ごとに書き分ける)
熱意は2の「具体的な瞬間」ににじませます。抽象的な「守りたい」ではなく、実務で触れた事実から動機を立ち上げる。

私の場合:「このシステムは、本当に安全なのか」という問い
正直に言うと、私がセキュリティを意識したきっかけは、大きなサイバー攻撃を目の当たりにしたような劇的な出来事ではありません。
インフラ運用をしていた頃、仕事の中心は「システムを止めないこと」でした。正常に動いている、障害も起きていない、バックアップも取れている。運用としては、それで「問題なし」と判断してしまいがちです。
ただ、脆弱性対応やパッチ適用、アカウント・権限管理に関わるうちに、「この設定は本当に適切なのか」「もしここを攻撃されたら何が起きるのか」と考える機会が増えていきました。そこで気づいたのは、自分の視点が「システムを動かす」側に偏っていたことです。サーバーを構築できる、ネットワークを理解している、障害対応ができる。それだけでは、システムを守ることはできません。
むしろ、インフラの仕組みを知っているからこそ、「どこが狙われるのか」「権限を奪われたら何ができてしまうのか」「ログを見れば何が分かるのか」を現実的に考えられる。だから私は、これまでの経験を捨ててゼロからやり直すのではなく、インフラ経験をセキュリティという新しい視点で活かす方向を選びました。
決め手になったのは、「このシステムは、本当に安全なのか?」という問いに、自分が自信を持って答えられなかったことです。
これが、先ほどの型の②「セキュリティに触れた具体的な瞬間」にあたります。劇的なエピソードは要りません。 実務の中で持った疑問で十分に成立します。
例文3パターン(コピーして自分の事実に置き換える)
例文1:インフラ運用経験者の場合
インフラエンジニアとして5年間、サーバー・ネットワークの構築運用に従事してきました。日々の運用の中で、脆弱性対応やアクセス権の管理を担当するうちに、「守る」観点からシステムを設計・運用することの重要性を実感するようになりました。障害対応の経験を通じてインシデント発生時の初動の難しさも体感しており、この経験を土台に、セキュリティを専門とする立場で組織のリスク低減に貢献したいと考え、志望しました。
例文2:社内異動・情シス経験者の場合
情報システム部門で社内インフラの運用と、取引先からのセキュリティチェックシートへの回答などを担当してきました。これらの業務を通じて、セキュリティが技術だけでなく、ルールと運用の設計で成り立っていることを学びました。より専門的にセキュリティの企画・運用に携わりたいという思いが強くなり、これまでの現場感覚を活かせる貴社を志望します。
例文3:資格取得で意欲を補強する場合
ネットワークエンジニアとして3年間の実務を経験し、その延長で情報処理安全確保支援士の学習を進める中で、体系的なセキュリティ知識と自分の実務がつながる感覚を得ました。実務で培った基盤に、学習で得た体系的な知識を掛け合わせ、セキュリティ専門職として一段深く貢献したいと考えています。
いずれも、抽象的な熱意ではなく、実務の事実から動機を立ち上げているのがポイントです。
例文4:SIer・受託開発からの転職
SIerでシステム開発・運用に7年間従事し、金融系を中心に複数の案件を担当してきました。要件定義の段階でセキュリティ要件が後回しにされ、リリース直前に大きな手戻りが発生する場面を何度も経験する中で、上流工程からセキュリティを組み込む重要性を痛感しました。開発側の事情を理解した上でセキュリティ要件を設計できる立場になりたいと考え、志望いたしました。
例文5:ヘルプデスク・情シス運用からの転職
社内ヘルプデスクとして4年間、PC・アカウント管理と社員からの問い合わせ対応を担当してきました。標的型メール訓練の運営や、退職者アカウントの棚卸しを担当する中で、技術的な対策だけでなく「人が守れるルール設計」が重要だと考えるようになりました。現場の運用実態を知る立場から、実効性のあるセキュリティ施策を作る仕事に携わりたいと考えています。
例文6:クラウド・SRE経験者の転職
AWS環境の設計・運用を5年間担当し、IAM権限設計やセキュリティグループの管理を通じて、クラウド特有のリスクに向き合ってきました。設定ミス一つで外部公開に至る事例を目にする中で、クラウドセキュリティを専門領域として深めたいという思いが強くなりました。インフラの実装を理解した上で、クラウド環境全体のセキュリティ設計に貢献したいと考えています。
自分に近い例文を土台にして、年数・担当業務・気づいた瞬間の3つを自分の事実に置き換えるだけで、オリジナルの志望動機になります。
やってはいけない志望動機3つ
- 「成長できる環境だから」:会社を「自分が成長する場」としか見ていない印象。企業は貢献してくれる人を採りたい
- 「未経験ですが頑張ります」:あなたは準経験者。謝罪から入らない(職務経歴書の書き方と同じ姿勢)
- どの企業にも出せる汎用文:4番の「応募先で何をしたいか」を空欄のまま出さない。求人票を読んで1文だけでも固有名詞を入れる
志望動機を書く前に、求人票を何本か読んでおく
志望動機は求人票の要件に合わせて書き分けるものです。募集要項をいくつか読むと、書くべき内容が具体的になります。会員登録だけで求人を閲覧できるので、応募する前の情報収集として使えます。
type転職エージェントに無料登録して求人を見る ›面接での深掘りに備える
志望動機は書いて終わりではなく、面接で深掘りされます。「なぜインフラからセキュリティなのか」「なぜ今なのか」は必ず聞かれると思ってください。書いた②の具体的な瞬間を、口頭で30秒語れるようにしておくと強いです。逆質問の準備は面接の逆質問集にまとめています。
志望動機を書いたら、実際の求人に当ててみる
志望動機は求人票の要件に合わせて書き分けるものです。実際の募集要項をいくつか読むと、書くべき内容がはっきりします。
社内SE転職ナビで求人を見る(無料) ›ケース別の書き分け
同じ経験でも、応募先や自分の立場によって強調すべき点が変わります。よくある3ケースを挙げます。
未経験から応募する場合(IT経験はある)
「セキュリティ未経験」で応募するとき、謝罪から入る人が多いのですが、これは損です。IT実務経験があるなら、あなたは完全な未経験者ではありません。
書くべきなのは「未経験ですが」ではなく、すでに触れているセキュリティ関連業務です。パッチ適用、アカウント権限の管理、ログの確認、バックアップ運用——どれもセキュリティの実務と地続きです。
セキュリティ専任の経験はありませんが、インフラ運用の中で脆弱性対応とアクセス権限の棚卸しを担当してきました。これらの業務を通じて、運用の現場から見たセキュリティ施策の実効性に関心を持つようになり、専門領域として深めたいと考えるようになりました。
「専任の経験はない」と事実は認めつつ、やってきたことを具体的に並べる。これが誠実で、かつ評価される書き方です。
社内異動を希望する場合
転職ではなく社内異動なら、志望動機の構造が変わります。会社への理解は前提として共有されているので、その分「なぜこの領域か」と「今の業務にどう還元するか」に集中できます。
現在の運用業務の中で、セキュリティ要件の確認が後工程になり手戻りが発生する場面を経験してきました。要件段階から関与できる立場になることで、運用側の実態を反映した実効性のある施策設計に貢献できると考えています。
異動の場合は「今の部署を辞めたい」と読める書き方を避けるのが鉄則です。現業への貢献と地続きであることを示します。詳しくは社内異動でセキュリティに入る戦略にまとめています。
エージェント経由で応募する場合
エージェント経由だと、志望動機は2回書くことになります。エージェントへの登録時と、企業への応募書類です。
- エージェントに伝えるもの:領域の希望(運用/設計/企画)、譲れない条件、経験の棚卸し。ここは正直に、幅広く
- 企業に出すもの:その企業の求人票に合わせて絞り込んだもの。求人票の必須要件に、自分の経験を対応させる
エージェントに「なぜセキュリティか」を明確に伝えておくと、紹介される求人の精度が変わります。ここを曖昧にすると、条件だけで機械的に紹介されることになります。
NG例文と、その直し方
「やってはいけない」と言われても、実物を見ないと自分の文章のどこが悪いのか分かりません。よくある例と、直したものを並べます。
NG例:意欲だけが並んでいる
サイバー攻撃が年々巧妙化する中、社会インフラを守るセキュリティエンジニアの仕事に強い魅力を感じています。これまでの経験を活かし、貴社の一員として貢献したいと考えております。学ぶ意欲は誰にも負けません。
問題は「これまでの経験」が何なのか一切書かれていないことです。この文章は、誰が出しても成立してしまいます。
直した例
ネットワークエンジニアとして5年間、社内インフラの運用を担当してきました。ファイアウォールのルール設計やVPN機器の脆弱性対応を通じて、日々の運用の中で「この設定は本当に安全なのか」を判断する難しさを実感しています。運用側の視点を持ったまま、防御の設計そのものに関わる立場になりたいと考え、志望しました。
同じ意欲でも、具体的な業務名と、そこで感じた課題が入るだけで、実在する人物の文章になります。
面接でこう聞かれる、という想定
志望動機を提出すると、面接ではほぼ確実に深掘りされます。よく来る質問と、答え方の方向性です。
- 「なぜ今のタイミングなのか」:現職への不満ではなく、経験が一定たまったこと・扱える範囲が見えたことを軸に答える
- 「セキュリティのどの領域に興味があるか」:漠然と「全部」ではなく、運用・設計・企画のどこかに寄せて答える。志望動機に書いた業務と繋がっていると強い
- 「今の会社ではできないのか」:一番答えにくい質問。「できる範囲はやってきた」と実績を示した上で、専任として深めたいと繋げる
- 「勉強していることは」:資格でも書籍でも構いませんが、志望領域と一致していることが重要
逆に、こちらから聞くべき質問は面接の逆質問集にまとめています。
まとめ
- 経験者の志望動機は「熱意」より「経験と志望の一貫性」
- 型は 実務 → 気づいた瞬間 → だから志望 → 応募先で何をしたいか
- 抽象的な社会貢献ではなく、実務の事実から動機を立ち上げる
- 謝らない、汎用文を出さない、成長目的に寄せない
書類全体の作り方は職務経歴書の翻訳例文集、応募先の選び方はエージェントの選び方にまとめています。
この記事は業界一般の情報と筆者個人の経験に基づくものであり、特定の組織の見解ではありません。


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